一般社団法人 全国各種学校日本語教育協会 シンポジウム「グローバル人材の育成とこれからの日本語教育」

シンポジウム「グローバル人材の育成とこれからの日本語教育」

会場の様子

坂東 眞理子/昭和女子大学 理事長
井上 洋/一般社団法人日本経済団体連合会 前参事
小林 光俊/全国専修学校各種学校総連合会 会長・公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会 前会長
吉岡 正毅/一般社団法人全国日本語教師養成協議会 代表理事
大日向 和知夫/一般社団法人日本語学校ネットワーク 代表理事
[司会]堀 道夫/一般社団法人全国各種学校日本語教育協会 理事長


堀
〈堀〉それでは、最初にそれぞれの立場から「日本語教育」「外国人人材の活用」等についてご意見をいただきます。まず初めに昭和女子大学理事長・総長を務められる坂東先生ですが、かつては埼玉県副知事や豪州のブリスベン総領事なども歴任され、内閣府の男女共同参画局長も務められるなど大変幅広い経験と見識をお持ちです。
〈坂東〉いまもご紹介いただきましたが、私は90年代の後半にオーストラリアのブリスベンという街で総領事をしておりました。それまでオーストラリアでは大学だけでなく、中学校、高校でも第二外国語として日本語を選択する生徒がたくさんいるほど、日本語教育に力を入れていました。しかし90年代終わり頃から日本に代わって中国の経済力が増してくるにつれ日本語学習者も減少していきました。昭和女子大学はアメリカのボストンにもキャンパスがあるのですが、そこでも80年代には日本とビジネスをしたい多くの人たちが日本語を勉強していました。しかし今ではそうした経済的なメリットを求めての学習者は減っています。逆に「マンガを読みたいから」「原語で日本のアニメを楽しみたいから」など、エンターテイメントが面白いから、好きだからという理由で日本語を勉強する人が増えています。
坂東
一方、日本国内では、すでにいろいろな産業の現場で外国人が労働力となっていて、私の地元富山県の小さな町でも中小企業で多くのベトナムの人々が働いています。夏にはベトナムフェスティバルを開催していて驚いたのですが、色々な場所で日本の経済を支えている外国の方々が増えているのだなと実感いたしました。欧米では移民に対する反発が強まっていますが、日本でもこうした外国人にいかに日本社会に溶け込んでいただくか。それを可能にするのは、やはりまず日本語教育です。日本語をマスターして、日本の社会や価値観を理解していただくということが、一番大事なポイントではないかと思います。
 ただ、昭和女子大学でも日本語教師の養成はしているのですが、国内では日本語教師としての良いポストがなかなかないために、日本語教師になろうという人がとても少ないのです。これは本当に残念なことだと思っております。
〈堀〉いまのお話しには皆さん、納得されることが多いのではないかと思います。次に井上さんは、数日前まで経団連で参与を務められた方で、企業の外国人受入れ問題などにも取り組まれ、色々な省庁とのパイプもお持ちです。

井上
〈井上〉私は日経連と経団連が合併した2002年、奥田会長の時代に、経団連の新しいビジョンを取りまとめる担当責任者を命じられました。その時奥田会長から「愛知県が非常にまずいことになっている」との指摘を受けました。自動車産業のサプライチェーンで働いている日系人とその子どもたちが、地域社会で摩擦を起こしてしまっているというのです。「どうしてそういうことになったのか、経済界としてやるべきことがあれば提言してほしい」との指示を受け、私は現地に何度も通って、新ビジョンに一項目設け、また2004年には経団連として初めての外国人受入れに関する提言をまとめました。本日資料としてお配りした「外国人受入促進に向けた基本的考え方」は、その2016年版ということになります。私は実は文化審議会の日本語教育小委員会の委員を9年間させていただきましたが、やはり外国人受入れを推進するための日本語教育を充実させていかないと、日本の産業社会の活性化や人口減少下での地域の安定化は実現できないのではないかと感じています。
〈堀〉ありがとうございます。次に小林さんは、全国専修学校各種学校総連合会会長のほか、日本介護福祉士養成施設協会の会長もされていましたので、人手不足が深刻な介護現場の観点からもお話しいただきたいと思います。

小林
〈小林〉今から4年ほど前、介養協の会長として国会の厚生労働委員会に参考人として呼ばれまして、介護人材の留学生を受け入れることの是非について意見を述べました。その中で私は、EPAの制度だけではなくて、日本で介護を勉強した人たちが日本で就労できるようにビザを出すことは大変重要なことだと申し上げました。多くの先進国では、高等教育を受けた外国人が、その国で働けるように在留ビザを与えていて、それは国際社会が発展するための基本政策です。日本もぜひそういう道を開くべきだと。同じ席にいらした経団連の方からも労働界の方からも、大きな反対はありませんでした。そうした流れの中で昨年11月、入管法の一部改正により在留資格「介護」が創設され、技能研修生制度にも「介護」が追加されました。私どもの学校でも昨年から、日本語学校を終えて日本語能力試験N2程度の学生を受け入れて教育しております。
 介護の分野だけでなく、他の産業分野でも同じように外国人に道を開くよう、全専各連の会長としてずっと申し上げてきました。専門学校には4年前に職業実践専門課程という文科大臣が直接認定をする課程ができました。そして、2019年4月には職業教育に特化した新たな高等教育機関、専門職大学も誕生することになりました。こうした制度は、国際社会の中で日本の職業教育が高等教育としてきちんと評価され、国際通用性が担保されれば、外国人にとっても大変大きな魅力となります。そして日本で就労できる道を開くことによって、日本経済を活性化し、人材の活性化が図れると思っています。そのためにも、今回の基本法については大変大きな期待をして、皆さんと一緒に成し遂げられるよう運動していきたいと思っております。
〈堀〉日本の職業教育の立場からのお話しもいただきました。次に吉岡さんには、教師養成の問題に取り組まれている立場から、お話しを伺います。

〈吉岡〉私ども全養協では、日本語教師の研修や公開講座、日本語教師検定、日本語教師就職説明会などの活動を行っています。今後は、日本語教師同士が現場の問題や教え方を相談したり、自由に討論できるような場を作りたいとも考えています。
 まず、日本語学校教師の質の問題としましては、文化庁への届出制によりある程度の担保ができていると思いますが、留学生以外に教える場合、どういう教師を採用するかは雇用者の判断です。その基準がないところから発生している問題もありますが、ここは分けて考える必要があるかと思います。また、海外においては、私も最近スリランカ、カンボジア、フィリピン等を視察しましたが、ネイティブの教師は少なく、ノンネイティブの教師はN4レベルが多いという状況です。
吉岡
  質とともに、教師の量的な不足も深刻です。私どもの試算では今後5年間で1万4千人の日本語教師が不足すると予測しています。需要が拡大している中で、この数はもっと大きくなるかもしれません。この問題を解決しないと、日本語教育機会の創出を逃し、教育の質の低下を招き、海外にも教師を送れなければ国際的な競争力を失います。その解決のためには、まずは待遇の改善です。そして教師の養成においては、今は文化庁には通学生しか認められていませんが、海外にいる人も含めてeラーニングなどを駆使した通信制を認めていく必要があると思います。海外のノンネイティブ教師を増やすために、日本で研修を受けるための費用、また海外に日本語教師を派遣する費用などについて、国としての支援や補助を考えていただきたいと思っています。
〈堀〉次に大日向さんは、ご自身も日本語学校を経営されている立場からご意見をお願いします。

〈大日向〉以前は日本語学校の生徒は「留学生」ではなく「就学生」という在留資格で、就職の就の字であることから「働きながら学ぶ」というような間違ったイメージを与えることもありました。日本語学校生も、大学や専門学校で学ぶ留学生と同じであることを世間に知っていただくために結成したのが、私ども日本語学校ネットワークでございます。交流イベントや関係機関との意見交換など、さまざま活動を行ってきております。
大日向
 いま多くの日本語学校は、日本の大学や専門学校に進学を目指す留学生の予備教育機関という位置づけとされています。大学や専門学校の留学生の6割以上は日本国内の日本語学校を経由しているというデータもありますし、また日本語学校の卒業生の約7割が高等教育機関に進学しています。残りの3割は進学以外の目的で留学しているということになりますが、最近増えていると感じるのは、母国で大学などを既に卒業し、日本に来て就職を目指すという留学生です。日本語学校では、日本語を教えることはもちろん、日本の生活方法、マナーや習慣、法律など、日本社会で問題なく暮らせるようにさまざまな指導・支援を行っております。里見先生にお話しいただきましたように、「日本語教育推進基本法」は国が日本語教育の推進について基本的な理念を定めるということで、日本語を教える者の一員として非常に嬉しく思っています。今後、中長期に滞在する外国人は間違いなく増えていきます。その流れの中で日本語学校を、今後さらに活用していただきたいと願っております。

〈堀〉ありがとうございました。5人の方に問題点を挙げていただきました。それぞれのお話しに関連して、さらにご意見があればお願いいたします。

〈井上〉高度成長期の日本は、国内生産し輸出をして外貨を稼ぐというグローバル化だったのですが、今は完全に世界を相手にしたバリューチェーン、サプライチェーンを作るというグローバル化に変わりました。モノも入れば人も入れば,お金も動く。これは止めようがない状況です。その状況の中で、日本の大学はどのくらいの魅力があるのかというのが、常に問われているところです。大学改革について学長の皆さんと議論の場を持つと、産業界側の不満はやはり日本の大学がまだまだグローバル化していないという部分なのです。要するに送り出すことも重要だし、受け入れることも重要だということです。海外の大学と提携をすると日本に関心を持ってくれる外国人学生はそれなりにいるのだけれど、海外に関心を持つ日本人学生がまだまだ少ない。そういう意味では双方向の動きをもっと活性化させる必要があると思います。
 経団連の活動の一つとして学生のグローバルキャリア支援を行ってきました が、あるとき中国人の留学生が「うまく就職ができました、ありがとうございました」と報告に来てくれました。彼は都内の有名大学に通っていましたが、インターンシップに行った企業で日本語力が足りないと言われ、大学とダブルスクールで日本語学校にも通い、一から日本語を学び直したというのです。このように優秀な留学生は、日本のグローバル化、イノベーション、あるいはビジネス革新を担う重要なキーパーソンになっていく可能性があります。そういう人材を育てることで、少子化で競争意識が弱くなった日本人学生に対する刺激にもなり、海外に出て行くグローバル志向を育てることにもつながります。日本で働きたいという留学生を惹きつけるような、かなり戦略的で総合的な対策が必要だと感じています。そういう意味でもこの「基本法」は非常に重要だと思うのですが、日本語教育だけでなく外国人受入れ施策全体として、里見先生が言われたような「横串を刺す」仕組みを考えていかないと、効果的な展開、あるいは予算の確保が難しいのではないかとも感じています。

〈大日向〉坂東先生から、大学で日本語教師を育てても、待遇の面などの問題でなかなか送り出しにくいというお話しがありましたし、井上さんからも留学生が大学と日本語学校のダブルスクールで希望の就職を果たしたという例が挙げられました。まさにいま、真剣に公的な支援を考えなければならないと思います。
 とりわけ日本語教師の量的な不足は深刻です。坂東先生、オーストラリアなどではそうした公的な支援などはあるのでしょうか。  

〈坂東〉オーストラリアでは、就労目的や留学で来る人たちに英語教育を行うのはもちろんですが、一緒に連れてきた家族や子供たちに対する英語教育や、生活習慣を伝える教育に公的な支援が行われています。日本でも、そうしたことをなおざりにしておくと、EUやアメリカのように社会に溶け込めないアウトサイダーとしての外国人が増えることによって、社会の安定性が損なわれることが危惧されます。ぜひとも公的な支援が必要だと思います。
 先ほど吉岡さんもおっしゃいましたが、日本で高度な職業人を目指す留学生に教育訓練も併せて出来るようなレベルと、日本で生活していくために必要な日本語を教えるレベルなど、しっかりレベル別の基準を作って教師の処遇を考えていく。大学学部を出たばかりの若い人たち、あるいは子育てを終えた人たち、日本文学を勉強した人たちなどの活用など、日本語教師の多様性ということもぜひ考えていただきたいと思います。

〈井上〉私は、公立の小中学校で外国籍の子供にどのような日本語教育が行われているのかを調査をしたことがあります。それで驚いたのは、担任を持っていない音楽や美術の先生が日本語の授業を担当していたという実態です。しかも毎年、どれだけ日本語教育が必要な児童が入ってくるか見極めながら予算措置がされるので、「私は来年ここにいるかどうか分かりません」という話を2つの学校で聞きました。公教育の中で必要な日本語教師が確保されていない状態の中で、先生は自分で420時間を学んで指導しているのに、それがキャリアとして評価されないということなのです。この調査をした頃に比べれば、いまはずいぶん改善されていると思うのですが、まずは公教育への予算措置が必要だし、教師の学ぶ機会を増やしていくためにも、日本語教育機関の皆さんとの連携が必要だと感じます。

〈小林〉先頃、OECD各国の「教育に対する公的支出」に関するデータが発表されました。各国GDPに対する教育費の比率は34カ国平均は4.4%ですが、日本は3.2%で1.2%の開きがあります。相変わらず教育に対する投資が日本は少なく、これで先進国と言えるのでしょうか。先の選挙では与党から、消費増税分の一部を教育投資に回すという案も出されましたが、これは幼児教育、さらにはマイノリティに対する教育も含めてと理解してよいのだろうと思います。そして職業教育を行う我々専門学校への公的支援も併せ、総合的に先進国並みの公的な教育投資をしていかないと、日本全体の活性化はできません。

〈吉岡〉日本語学校は日本語教育を担う重要な機関であるにもかかわらず、学校教育のなかで公的支援の対象になっていません。大学や専門学校の留学生も自然に湧いてきたわけではなく、日本語学校での懸命の教育があってこそです。教師の待遇も年々改善されてはいますが、日本語教育の専門家であるにもかかわらず、たとえば小学校で教えようとしても小学校教諭の資格がなければ教えられません。公的な資格としての位置づけができれば、日本語教師になりたいという人も増えてくると思うのです。また日本語学校で学ぶ学生にも、介護士や保育士などのように在学中に学費を貸与し、卒業後に一定期間働けば返済免除になるなどの奨学金制度を考えてもらえないでしょうか。

〈井上〉いろいろお話しがありましたように、日本語学校で地道に苦労されながら教えておられる教員の方々がいて、一生懸命学ぼうとしている留学生や児童がいる、そして学んだことにより日本で就職して活躍している外国につながりのある若者もいる。そういう成功モデルを社会にどんどん伝えるプロモーションが必要ではないでしょうか。私が所属していた文化審議会の日本語教育小委員会では、日本語教育の課題や解決策を「11の論点」としてまとめていますが、こうした有益な検討結果が出たにもかかわらず、なかなか社会に広まっていません。いまこそ、それぞれの団体が手分けをして、こうした論点を一つずつしらみつぶしに政策化する活動をしていくことが必要だと思います。

〈坂東〉アジア諸国もどんどん経済的に豊かになっていて、もう「日本に入れてやる」という状態ではないんですよね。日本に来て気持ちよく働いてもらう、気持ちよく生活してもらうための一番のキーは、やはり日本語教育です。日本語ができなかったら本当に最初の関門になってしまうのですから。これから本当の意味でグローバル化を進め、日本社会が活力を維持するために、日本語教育は戦略的に大事な政策なのだということを、機会を捉えて強く訴えていきたいと思っています。

〈堀〉本日はシンポジストの皆さまに活発なご意見をいただき、多様化する日本語教育が抱える今日的な課題が多く浮かび上がってまいりました。私ども全各日協としても、人手不足が深刻な福祉業界やIT、観光、自動車整備など、人材養成機関である大学や専門学校と連携する委員会も計画しておりまして、できることから一つずつ取り組んでいきたいと思っております。ご来席の皆さまにも今後もご協力、ご提言などいただければと思います。本日は誠にありがとうございました。

会場図

〔文責・事務局〕